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ティーペック健康ニュース「黒内障が警告?脳梗塞の意外な前兆サイン」
第395号 2025/8/22
ティーペック健康ニュース
発行:ティーペック株式会社
今月のテーマ
「黒内障が警告?脳梗塞の意外な前兆サイン」
目の病気で「白内障」「緑内障」は広く知られていますが、「黒内障」はご存じでしょうか。突然視界が真っ暗になるこの症状は、実は脳梗塞の重要な前兆サインの可能性があります。「目の異常だからそのうち眼科を受診すればよい」などと軽視していると、命に関わる脳梗塞を発症してしまうかもしれません。本記事では、あまり知られていない黒内障の症状や脳梗塞との関連性、見逃してはいけない脳梗塞の前兆サインについて詳しく解説します。
急に片方の目が見えなくなり、すぐに回復する黒内障
黒内障とは、正式には「一過性黒内障」と呼ばれる症状で、突然片方の目の視界が暗くなったり、見えなくなったりします。症状は「カーテンがスーッと引かれたように見えなくなった」「電気が突然消えたように暗くなった」「雲がかかったように視界がぼやけた」などと表現されます。一過性という名前の通り、この症状の大きな特徴は一時的であることです。通常、数分から長くても1時間程度で視界が元に戻ります。痛みを伴わないことがほとんどで、多くの場合は片方の目だけに起こります。
黒内障が起こる原因は、目の奥にある網膜への血流が一時的に悪くなることです。網膜は目で見た映像を脳に伝える重要な部分です。網膜に血液を送る血管に血栓(血の塊)が詰まって血流が滞ると、視覚を失い黒内障の症状が表れます。症状が一時的なのは血栓が時間の経過で自然に溶けたり、細かく砕けて流れ去ったりして、血流が回復するからです。血流が元に戻ると症状もなくなります。
黒内障の症状は多くの場合は一時的ですが、網膜に血液を送る血管が完全に詰まってしまう場合もあります。もし、このような「網膜動脈閉塞症」になってしまうと、緊急で治療しなければ視力を失ってしまいます。発症から約100分が経過すると網膜の細胞が死んでしまい元に戻らなくなってしまいますから、早急に医療機関を受診する必要があります。
目の症状が脳の危険信号?黒内障は脳梗塞の前兆サイン
黒内障は時間が経つと何事もなかったかのように症状がなくなるため、多くの人が「疲れ目だったのかな」「一時的なものだから大丈夫」と軽く考えてしまいがちです。しかし、重要なのはこの症状が目だけの問題ではないということです。
網膜に血液を送る動脈は、脳に血液を送る首の動脈(内頸動脈)から枝分かれした血管です。首の動脈が動脈硬化を起こし、プラーク(コレステロールがたまったコブのようなもの)がたまっていると、一部がはがれて血栓となり、それが網膜の動脈に詰まることで黒内障になります。血栓は網膜の動脈だけでなく、血流に乗って流れていき脳の血管に詰まってしまうかもしれません。つまり、黒内障が起こるということは、いつ脳梗塞を発症してもおかしくないという意味で、脳梗塞の前兆サインなのです。
医学的には、黒内障は「一過性脳虚血発作(TIA:ティーアイエー)」の症状の一つとして位置付けられています。一過性脳虚血発作とは、脳の血流が一時的に悪くなることで起こる症状で、「脳梗塞の一歩手前」とも表現されます。
一過性脳虚血発作では、手足のまひなど脳梗塞と同じ症状が一時的に起こりますが、すぐに(通常は30分以内)症状が回復します。一時的に血栓で脳の血管が詰まるものの、すぐに血流が回復して症状がなくなっている状態です。このため、この状態ではいつ本格的な脳梗塞が起こってもおかしくありません。研究によると、一過性脳虚血発作を起こした人の15%~20%が3ヵ月以内に脳梗塞を発症するとされています。
このように、黒内障は単なる目の一時的な症状ではなく脳梗塞の兆候の一つですので、黒内障の症状を経験したら、眼科だけでなく神経内科や脳神経外科などで精密検査を受ける必要があります。黒内障の症状が起こった場合、首の動脈が動脈硬化を起こし、詰まりやすくなっていることが多く、頸動脈エコー検査やMRI検査などで血管の状態を詳しく調べます。その後、必要に応じて血管を詰まりにくくする薬による治療、詰まりかけた血管を広げる手術(頸動脈ステント留置術など)を行います。
脳梗塞の症状を見つけるための「FAST」
脳梗塞の兆候には、黒内障以外にも見逃してはいけないサインがあります。これらのサインを知っておくことで、早期発見・早期治療につなげることができます。
脳梗塞の兆候を見分ける方法として、世界的に広く使われているのが「FAST」チェックです。FはFace(顔)、AはArm(腕)、SはSpeech(言葉)、TはTime(時間)を意味します。チェックポイントとなるそれぞれの具体的な症状を以下の表にまとめました。
脳梗塞の初期症状をチェックする「FAST」
項目 |
チェック内容 |
解説 |
F (Face:顔) |
顔の片側だけが下がったり、顔がゆがんだりしていないか |
脳梗塞では体の片側にまひが起こることが多く、顔の半分だけが動かないという異常が表れます。 |
A (Arm:腕) |
両腕を同じ高さに上げられるか |
体の片側に異常が起こるため、片腕だけ力が入らず上げることができない場合には、脳梗塞の可能性があります。 |
S (Speech:言葉) |
正しく話せるか、簡単な言葉を理解できるか |
ろれつが回らない、簡単な言葉が理解できないなど、脳梗塞になると言語に関する異常が表れます。 |
T (Time:時間) |
症状が出た時刻 |
経過時間によっては効果的な治療法が受けられますので、発症時刻を記録し、早急に医療機関を受診します。 |
※脳梗塞や一過性脳虚血発作では、上記の症状のほかに片側の手足や顔のしびれ、体の片側だけ力が入らない、めまい、ふらつき(平衡感覚の低下)などが起こることがあります。
これらの症状を感じたとき、または家族や周囲の人にこのような症状が見られたときは、迷わず救急車を呼んでください。「様子を見よう」「しばらくしたら治るかもしれない」と考えて放っておくことは危険です。脳梗塞の治療は時間との勝負で、発症から治療開始までの時間が短いほど効果的な治療法を選択でき、後遺症を軽減できる可能性が高まります。
脳梗塞の発症から4.5時間以内であれば詰まった血栓を薬で溶かす「血栓溶解療法(t-PA)」、発症から8時間以内であればカテーテルを血管に入れて血栓を取り除く「血栓回収療法」を受けられる可能性があります。症状を確認したらできるだけ早く、緊急で医療機関を受診することが重要です。
最 後 に
夏の暑さで脱水になりやすいこの時期は、血液がドロドロになって脳梗塞のリスクが特に高まります。小まめに水分補給をすることを心掛け、脱水症状に注意しましょう。お風呂あがりや就寝前、起床後などに、コップ1杯の水を飲むのを習慣付けるのがお勧めです。
黒内障などの一時的な症状も「すぐに治ったから大丈夫」と軽視せず、体からの重要な警告メッセージとして受け止めることが大事です。黒内障という症状を知っておくことで、あなたや大切な人の命を救うことができるかもしれません。
原稿・社会保険研究所ⓒ